ウェンガーという存在

Victorinox & Wenger
本物のスイスアーミーナイフといえば、普通ビクトリノックスを指すと思う。
いや、全くもってそれで正しい、正真正銘の本物だし、その点に文句をつける気なんて全く無い。

しかし2013年以前をよく知っている世代は、スイスアーミーナイフと言えば「ビクトリノックス」(Victorinox)、「ウェンガー」(Wenger)という2大ブランドであったのを覚えているだろう。
どちらも同量ずつスイス軍にアーミーナイフを納品していたのだから、まさに2大巨頭、当然どちらも本物中の本物であったのだ。

ウェンガーブランドは今も存在はしていて、主に時計などを製造しているので、そちら方面で名前は知っているという人も多いかもしれないが、アーミーナイフブランドとしてのウェンガーの名は消えてしまって既に久しい。

ナイフメーカーとしてのウェンガーは、1990年の湾岸戦争以降、飛行機他、乗り物内への刃物の持ち込みが厳格化された結果、ドル箱であったお土産用ナイフの販売激減で大打撃を受けてしまい、そこへ中華製の粗悪な類似品の台頭、2001年の911事件から続く一連のテロ・戦争の影響による更なる厳格化もあり、経営不振へ陥ってしまう。

2005年の経営危機の際、ライバルであったビクトリノックスが手を差し伸べ、その後もウェンガーの名前でしばらく生産を続けたものの、2013年を最後に「Wenger」と刻まれたアーミーナイフが新たに作られることは無くなってしまった。

しかし世の中には、今でも結構多数のウェンガー党の人がいるようで、そして現行ビクトリノックスのラインナップにはウェンガーの血統が今も強く息づいており、「Victorinox」と銘打たれてはいても、実はほとんどウェンガーなモデルを手にしている人も多いのだ。

どっちでもいい、という人が多いのは確かだろうし、「Wenger」の銘が刻まれたナイフの生産終了から10年が経ち、ウェンガーの存在自体を知らない人も確実に増えてきているだろう。

しかし、アーミーナイフはやはりウェンガーじゃないと、という人が、かつては多数いたのは確かであり、私もその一人だった。
今でも新しいモデルを買う時には、まず当時モノが手に入らないか探してしまうし、ビクトリノックスの新品を買う場合でもウェンガーの血統のモデルを選んでいる。

理由はもちろん両者の違いにある、そう、ウェンガーにはビクトリノックスよりも優れた点が数多くあったのだ。
その違いを知る人が減ってきているのは間違いないが、元々の違いを知っておくとツールへの理解や愛着も深まると思うし、知らずにモデルを選ぶと、似たモデルでも差が出てしまうという厳然たる事実がある。

はっきり言ってしまえば、ウェンガーを知らずにアーミーナイフを語ることなど到底できないのだ、そしてそれを痛い程知っていて、ある意味で今も苦しんでいるのはビクトリノックスだろう。

次:ビクトリノックスとの違い

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